神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1261号 判決 1992年1月31日
原告(反訴被告)
藤原芳月
被告(反訴原告)
森嶋武治
主文
一 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金五五一万七二八一円及びこれに対する昭和六三年八月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告(本訴原告)は、反訴原告(本訴被告)に対し、金六万二五〇〇円及びこれに対する昭和六一年一二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求、反訴原告(本訴被告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを五分し、その三を本訴原告(反訴被告)の、その二を本訴被告(反訴原告)の、各負担とする。
五 この判決の主文第一、第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
以下、「本訴原告(反訴被告)藤原芳月」を「原告」と、「本訴被告(反訴原告)森嶋武治」を「被告」と、各略称する。
第一請求
一 本訴
被告は、原告に対し、金一八一二万円及びこれに対する昭和六三年八月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
原告は、被告に対し、金六二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年一二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、普通乗用自動車と衝突した普通乗用自動車の運転者が、右衝突により負傷し自車輌を破損させたとして、右衝突の相手である普通乗用自動車の運転者兼保有者に対し、所謂人損につき自賠法三条に基づき、所謂物損につき民法七〇九条に基づきその損害の賠償を請求(本訴)し、一方、右損害賠償を請求された相手の普通乗用自動車の運転者も、右衝突により自車輌を破損されたとして、右損害賠償を請求した普通乗用自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、その損害の賠償を請求(反訴)した事件である。
一 争いのない事実
1 本訴・反訴に共通
(一) 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。
2 本訴
(一) 被告の本件責任原因〔自賠法三条所定の運行供用者、民法七〇九条所定の過失(一時停止、右方注視の各義務違反)。〕の存在。
(二) 原告は本件事故後自賠責保険金一二〇万円、被告からの支払分金一八〇万円、合計金三〇〇万円を受領した。
3 反訴
原告の本件責任原因に関する事実中本件交差点の南北道路には黄色点滅信号が設置されていた事実。
二 争点
1 本訴
(一) 原告の本訴受傷の具体的内容及びその治療経過
(1) 原告の主張
(イ) 頭部外傷による複視、記銘力減退、健忘等。
(ロ)(a) 社会保険神戸中央病院
昭和六一年一二月一七日から昭和六二年四月三〇日まで入院(一三五日間)。
昭和六三年一月二七日から同年七月二日まで入院
(b) 協和病院、社会保険神戸中央病院、蔭山整骨院、健友館、岡田歯科医院、桶谷歯科、金沢大学付属病院、三木市立市民病院、林眼科医院、金沢整体病院へ通院。
(c) 原告の本訴受傷は、未だ症状固定していない。
(2) 被告の主張
原告の右主張事実は全て争う。
(イ) 原告が本訴受傷の内容として主張する複視、記銘力減退、健忘等の症状は、本訴事故との間の因果関係がない。
仮に右症状が現存するとすれば、原告の本件受傷は後記のとおり既に症状固定しているから、これら症状は、後遺障害の問題である。
(ロ) 又、仮に、原告がその主張する各箇所で本件受傷の治療を受けたとしても、蔭山整骨院及び健友館は医療機関ではないから、このような非医療機関における治療は、医師の判断による場合のほかは相当な治療行為に該当しない。したがつて、右二非医療機関における治療は、本件事故と相当因果関係に立つものでない。又、原告が主張する医療機関における治療も、社会保険神戸中央病院以外の医療機関における治療は、原告独自の判断で転々と行われたものであつて、このように、患者である原告独自の判断で医療機関を転々とすることは治療期間を遷延化するものであり、右治療の長期化に基づく治療費等の損害については、原告の行動の寄与する割合を考慮すべきである。
(ハ) 原告の本件受傷は、昭和六二年一二月から遅くとも昭和六三年一月末頃までの間に症状固定している。
(二) 原告の本件損害の具体的内容(弁護士費用を含む。)特に主要争点となる損害費目
(1) 治療費
原告の主張
原告が主張する本件治療費合計金二六六万三四七八円は、同人が前記主張の各医療機関において、昭和六一年一二月一七日から昭和六三年七月二日まで治療を受けた費用の合計額である。
被告の主張
原告の右主張事実は、全て争う。
原告の右主張する本件治療個所の内陰山整骨院及び健友館における治療については、前記主張のとおりであるから右個所における治療費は、本件事故と相当因果関係に立つ損害といえない。
又、原告の本件症状固定日については前記のとおりであるが、原告主張の右医療機関における治療中右症状固定日以後の治療は本件受傷についての治療に当たらない故、右治療に要した治療費は、本件事故と相当因果関係に立つ損害とはいえない。
更に、原告の本件症状固定以前の治療であつても、同人の独自の判断による治療に要した費用についても、前記主張のとおりである。
(2) 休業損害
原告の主張
原告は、本件受傷治療のため昭和六一年一二月一七日から平成元年七月一六日まで休業せざるを得なかつた。
被告の主張
原告の本件受傷治療のため休業したとしても、その休業期間は、昭和六一年一二月一七日から昭和六一年一〇月末日までである。同人のその後の休業期間は、本件事故と相当因果関係を欠く。
(三) 過失相殺
被告の主張
本件事故現場交差点は、原告車進行道路(南北道路)において、対面信号が黄色点滅であつた。
したがつて、原告が右交差点へ進入するに当たつては、同人に、自車を徐行して左右の安全を確認すべき注意義務があつた。
しかるに、原告は、右注意義務を怠つて右交差点に進入し、右過失により本件事故を惹起した。
よつて、原告の本件損害額の算定に当り、同人の右過失を斟酌すべきである。
原告の主張
被告の右主張事実中本件交差点の南北道路には黄色点滅信号が設置されていたことは認めるが、その余の事実及び主張は全て争う。
2 反訴
(一) 原告の本件責任原因(民法七〇九条所定の過失。徐行、左右の安全確認義務違反。)の存否。
(二) 被告の本件損害の具体的内容(弁護士費用を含まない。)
(三) 過失相殺の成否
原告の主張
本件事故は、被告の重大な過失により発生した。
被告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当り斟酌すべきである。
被告の主張
原告の右主張は争う。
第三争点に対する判断
一 本訴
1 原告の本件受傷の具体的内容及びその治療経過
証拠〔甲四、六、一五、一六、一八の一、二、乙一四ないし一七、原告本人(一回)、本件鑑定の結果。〕によれば、次の各事実が認められる。
(一) 原告の本件受傷の具体的内容は、前頭部に加わつた外力による頭部外傷で、神経放射線学的検査において、頭蓋及び脳実質に器質的損傷は認められないが、一時的に意識障害、即ち脳の機能障害を生じさせるには十分な外力の加わつた重症の頭部外傷であり、右受傷に起因して、複視、受傷後早期における記銘力減退、健忘症の各症状が現出した。又、歯牙破損、歯根膜炎の傷害も受けた。
(二) 原告は、本件事故直後の昭和六一年一二月一六日、神戸市西区押部谷町所在協和病院において応急処置を受け、同月一七日、同市北区惣山町所在社会保険神戸中央病院脳外科へ救急搬入された。そして、同人は、同日から昭和六二年四月三〇日まで右病院へ入院(一三五日間)し、同年五月一日から昭和六三年一月一六日まで右病院へ通院(実治療日数二七日)して、それぞれ本件受傷の治療を受けた。
なお、原告は、昭和六二年二月一二日から同年二月二七日までの間、右病院歯科においても治療(実治療日数二日)を受けたが、同人が右治療に赴かないため、右治療は、中止として終了した。
(三) 原告の本件受傷は、昭和六三年一月一六日症状固定したと推認できる。蓋し、原告は、右同日から同年七月一一日まで右病院での治療を受けていないし、その間の診療記録は存在せず、しかも、同人が同年七月一一日以後右病院では治療を受けるようになつてからの主訴は腹視だからである。
(四) 本訴において、原告の後遺障害に関する主張・立証はない。
2 原告の本件損害の具体的内容
(一) 治療費 金一七四万七三四〇円
(1) 原告の本件受傷の具体的内容、その治療経過、本件症状固定日は、前記認定のとおりである。
(2) 証拠(甲六、七の一ないし六、一七の一ないし二九)によれば、原告が協和病院、社会保険神戸中央病院(ただし、前記認定の入院期間及び本件症状固定日までの通院期間内の治療分。歯科治療を含む。)における治療費の合計額は、金一七四万七三四〇円であることが認められる。
(3)(イ)(a) ところで、交通事故において、被害者の症状固定以後の治療費が、当該事故と相当因果関係に立つ損害と認められるためには、右治療に関する一定の事由の主張・立証を要すると解するのが相当である。
(b) 本件において、原告の本件症状固定日が昭和六三年一月一六日であることは前記認定のとおりである。
したがつて、本件においても、原告主張の治療費中右症状固定日以後の治療費が本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)と認められるためには、右説示にかかる一定の事由の主張・立証を要するというべきである。
(c) 証拠(甲八の一、二、九、二〇の二、二一、二二の一ないし五、二三の二、二五、二六。)によれば、原告が主張する右(2)認定以外の医療機関(陰山整骨院及び健友館が医療機関であるか否かについての判断は、さて置く。又、後記(ロ)認定の治療を除く。)における治療は、いずれも本件症状固定日以後の治療であることが認められるところ、右各治療については、前記説示にかかる一定の事由の主張・立証がない。
よつて、右症状固定日以後の関係治療費については、未だ本件損害とは認め得ない。
(ロ) ただ、証拠(甲二〇の一、二三の一、二四。)によれば、原告は、社会保険神戸中央病院において前記(2)で認定した治療期間中、岡田歯科医院、市立三木市民病院、林眼科で、それぞれ診療治療を受けていることが認められる。
しかしながら、原告本人の供述(一、二回。)によれば、右各治療は、いずれも原告本人独自の判断でこれらの治療を受けたことが認められるものの、右各治療が原告の本件受傷の治療にとつて有効かつ相当であつたかの点についての主張・立証がない。
よつて、右各医療機関における治療費も、未だ本件損害と認めるに至らない。
(二) 入院雑費 金一三万五〇〇〇円
原告の本件入院期間が一三五日であることは前記認定のとおりであるところ、本件損害としての入院雑費は、右入院期間中一日当たり金一〇〇〇円の割合による合計金一三万五〇〇〇円と認める。
(三) 通院交通費 金九万一八〇〇円
原告の本件受傷の具体的内容、その治療経過、同人が実治療日数二七日通院したことは、前記認定のとおりである。
証拠〔甲一八の一、二、原告本人(二回)。〕によると、原告の右通院のためには一日往復金三四〇〇円を要したことが認められる。
右認定各事実を総合し、本件損害としての通院交通費を合計金九万一八〇〇円と認める。
(四) 休業損害 金四三一万一四五〇円
(1) 原告の本件入通院期間、本件症状固定日は、前記認定のとおりである。
(2)(イ) 証拠〔甲一〇ないし一二、証人三木長子、原告本人(一回)、本件鑑定の結果。〕を総合すると、原告は、本件事故当時、農業及び華道教授により年収金四四〇万一八二五円(日額金一万二〇六〇円。円未満四捨五入。以下同じ。)を得ていたこと、同人は、本件入通院期間中全く就労しなかつたこと、したがつて、同人には右期間中収入が全くなかつたこと、しかしながら、医学的見地からすると、同人は、昭和六二年一一月一日以後、就労が可能であつたことが認められる。
(ロ) 右認定各事実を総合すると、原告の本件休業損害は、昭和六一年一二月一七日から昭和六二年一〇月三一日までの三一九日間につき全損、昭和六二年一一月一日から昭和六三年一月一六日までの七七日間につき二分の一損と認めるのが相当である。
(ハ) 右認定各事実を基礎として、原告の本件休業損害を算定すると、その合計額は金四三一万一四五〇円となる。
(1万2060×319)+〔(1万2060円×1/2)×77〕=431万1450円
(五) 慰謝料 金二四〇万円
前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告の本件慰謝料(ただし、後遺障害分を除く。)は金二四〇万円と認めるのが相当である。
(六) 原告車関係損害 金二二万二五〇〇円
証拠〔甲一四の一、二、二七、原告本人(一、二回。)。〕によれば、原告車は、本件事故により破損され、修理不能のため廃車処分にされたこと、原告は、右車輌のレツカー代金金二万円、廃車処分のための登録関係費用金二五〇〇円を支払つたこと、右車輌の右事故当時の時価は、金二〇万円を下らないことが認められる。
右認定各事実を総合すると、原告の本件物的損害の合計額は、金二二万二五〇〇円となる。
(七) 原告の本件認定損害の合計額 金八九〇万八〇九〇円
3 過失相殺の成否
(一) 本件事故の発生は、当時者間に争いがない。
(二) 原告にも本件事故発生に対する過失が存したことは、後記反訴に対する判断において認定説示するとおりである。
そうすると、原告の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当たり斟酌するのが相当であり、右斟酌する原告の右過失割合は、本件認定にかかる全事実関係に基づき、全体に対し一〇パーセントと認めるのが相当である。
そこで、原告の前記認定にかかる本件損害合計金八九〇万八〇九〇円を右過失割合で所謂過失相殺すると、その後において原告が被告に請求し得る右損害は、金八〇一万七二八一円となる。
4 損害の填補
原告が本件事故後自賠責保険金及び被告からの支払金の合計金三〇〇万円の支払いを受けたことは、当時者間に争いがない。
右事実に基づくと、原告の本件受領金金三〇〇万円は、本件損害の填補として、原告の前記損害金八〇一万七二八一円から、これを控除すべきである。
右控除後の右損害は、金五〇一万七二八一円となる。
5 弁護士費用 五〇万円
前記認定の本件全事実関係に基づき、本件損害としての弁護士費用は、金五〇万円と認めるのが相当である。
6 結論
以上の全認定説示を総合し、原告は、被告に対し、本件損害金五五一万七二八一円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日(この点は、原告の主張に基づく。)であることが本件記録から明らかな昭和六三年八月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。
二 反訴
1 原告の本件責任原因の存否
(一) 本件事故の発生、本件交差点の南北道路に黄色点滅信号が設置されていたことは、当事者間に争いがない。
(二) 証拠〔乙一、三ないし五、一〇、一一、原告本人(一回)、被告本人。〕によれば、次の各事実が認められる。
(1) 本件交差点は、南方神戸電鉄緑が丘駅方面から北方三木市志染町志染中方面に通じる南北道路(平坦なアスフアルト舗装路)と西方同市緑が丘町西一丁目方面から東方同市緑が丘町本町二丁目方面に通じる東西道路(路面状況は、南北道路と同じ。なお、南北道路と東西道路の幅員は、ほぼ同じ。)が十字型に交差している交差点である。
右交差点の南西角にはコープ緑が丘店の建物が、その南東角には三木警察署緑が丘派出所の建物が存在する。
したがつて、車輌が右は交差点の南北道路を南方から北方に向け右交差点内に進入しようとする場合、右車輌の運転者にとつて、自車から左右前方への見通しは不良であり、同じく右交差点の東西道路を西方から東方へ向け右交差点内に進入しようとする車輌の運転者にとつても、自車右前方への見通しは不良である。しかし、右各車輌の運転者にとつて、右見通し不良の方向を除くその余の方向への見通しは良好である。
本件交差点に設置された信号機は、本件事故当時作動し、南北道路は黄色点滅、東西道路は赤色点滅であつた。
本件交差点付近における最高速度は、右両道路とも最高速度時速四〇キロメートルである。
なお、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。
(2) 原告は、本件事故直前、原告車を運転して本件交差点南北道路を南方から北方に向け、進行し、右交差点内へ進入したが、右交差点南側入口から約一八・七メートル北方へ進行した地点附近で、自車左側面側前部と被告車の右前部とが衝突し、右事故が発生した。
原告車は、右事故により前輪左側曲損、左前フエンダー、前部中央バンパー、ボンネツト、左後部ボデー曲損等の損傷を受けた。
なお、原告車が右事故後修理不能のため廃車処分にされたことは、前記認定のとおりである。
(3) 一方、被告は、本件事故直前、被告車を運転して本件交差点の東西道路を西方から東方へ向け時速約五〇キロメートルの速度で進行し右交差点内へ進入したが、右進入に際し、自車進行方向の対面信号の表示が赤色点滅であつたのに一時停止せず、右前方道路に対する安全確認を欠いたまま、同一速度で進入した。その結果、被告車が右交差点西側入口から約一三・五メートル西方へ進行した地点付近で自車右方約一〇・三メートルの地点附近に進来する原告車を認め、危険を感じ急ブレーキをかけたが間に合わず、それより約五メートル西方へ進行した地点附近で、自車と原告車の前記認定個所が衝突し、右事故が発生した。
なお、被告車は、右事故により前部右側バンパー、フエンダー、ボンネツト部、後部右側トランク部曲損等の損傷を受け、右事故後廃車処分にせざるを得なかつた。
(三) しかして、本件のように、自車と対面する信号機が黄色点滅を表示しており、交差道路上の交通に対する信号機が赤色点滅を表示している交差点に進入しようとする自動車運転者は、他の車輌あるいは歩行者の動向に注意して進行すべき所謂注意進行義務を負つているというべきところ、前記認定各事実を総合すると、原告は、右義務に違反した過失により本件事故を惹起したと推認するのが相当である。
よつて、原告には、民法七〇九条に基づき、被告が本件事故により被つた損害を賠償すべき責任があるというべきである。
2 被告の本件損害の具体的内容
(一) 被告車の本件事故による破損状況、右車輌が右事故後廃車処分にされたことは、前記認定のとおりである。
(二) 証拠(乙一二、一三の一、二、被告本人。)によれば、被告車の本件事故当時の時価は金六二万五〇〇〇円であること。被告は、右車輌を株式会社大信販との間で立替払契約を締結し、販売店株式会社マツダオート兵庫から昭和六一年四月頃代金金一〇七万円で購入したこと、そのため、右車輌の所有権は、本件事故当時マツダナート兵庫に留保されていたこと、しかしながら、被告は、右事故後右車輌が廃車処分された後も右株式会社大信販に立替金の支払いを続けていることが認められる。
(三) 右認定各事実を総合すると、被告の所謂本件物的損害は金六二万五〇〇〇円を下らないことが認められる。
3 過失相殺の成否
(一) 被告に本件事故発生に対する過失(一時停止、右方注視の各義務違反。)が存在することは、当時者間に争いがなく、被告車の右事故発生までの具体的動向は、前記認定のとおりである。
(二) 右当事者間に争いのない事実及び右認定各事実を総合すれば、本件事故は被告の過失に基づき発生したことが明らかである故、同人の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当である。
しかして、右斟酌する同人の右過失は、前記認定の本件事実関係に基づき、全体に対し九〇パーセントと認めるのが相当である。
そこで、被告の右認定にかかる本件損害金六二万五〇〇〇円を右過失割合で所謂過失相殺すると、その後に被告が原告に請求し得る右損害は、金六万二五〇〇円となる。
4 結論
以上の全認定説示を総合し、被告は原告に対し、本件損害金六二万二五〇〇円及びこれに対する本件事故当日であることが当時者間に争いのない昭和六一年一二月一六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。
(裁判官 鳥飼英助)
事故目録
一 日時 昭和六一年一二月一六日午後一一時五分頃
二 場所 三木市緑が丘町東一丁目一番地の三一先交差点内(信号機が設置されている)
三 原告車 原告運転の普通乗用自動車
四 被告車 被告運転の普通乗用自動車
五 事故の態様 被告車が本件交差点の東西道路を西方から東方へ向け進行し、原告車が右交差点の南北道路を南方から北方へ向け進行し、右交差点内で出会い頭に衝突した。
以上